千代田光学精工株式会社(現:ミノルタ) 1953年 120mm(中判(6×6)・二眼レフカメラ)

 


 

 1953年製の二眼レフカメラです。

 二眼レフカメラは、文字通りレンズが2組あるカメラです。上のレンズはファインダー用、下のレンズは撮影用です。今ではあまり見かけない形ですが、新品も売っています。また、愛好者も多いです。

 Minoltacordのシャッターは、セイコーとシチズンの2社から出されていますが、今回入手した物は、セイコーのシャッター搭載モデルです。スペックとしては、B〜1/500秒までの範囲です。レンズはプロマーSV 75mmF3.5です。クランク式の自動巻き止め機構が付いているので、フィルムの巻上げは簡単です。

 今回はこのカメラをレストアします。

 


 

(1)ボディをチェック (2)ガタツキ・緩みの修正 (3)つまみ系の清掃
(4)レンズの清掃 (5)ピントグラスの清掃

(6)革張り

(7)修理完了〜♪ (8)シャッター速度測定 (9)テスト撮影
(10)あとがき

 


 

(1)ボディをチェック

 

 故障の具合をチェックします。まず、外装に大きな錆は見当たりません。そして、シャッターや絞りもレバーの動作が固い以外は問題ないようです。

 しかし、革が剥がれ落ちています。そしてなんと・・・レンズを支えている部分がガタついています。これでは、ピントも合わせられないし撮影もできません。また、レンズにカビが生えています。

ボディ

 

 側面の革は写真のように剥がれてしまっています。革が乾燥してパリパリになっています。

側面

 

 背面もご覧のような有様・・・^^;みすぼらしい姿です。

 剥がれた革がないので、全部張替えをしないといけません。

背面

 

 


 

(2)ガタツキ・緩みの修正

 

 まずはじめに、シャッター・レンズを分解してガタツキの修正とレンズの掃除を行います。

 そのためには、正面パネルの革を剥がさなければいけません。この革の裏にネジが隠れているんです。

 革を剥がすには、ボディとの間にエタノールを流し込みながら行うとスムーズに行きます。そして、私はマイナスドライバーや彫刻刀の平刀を使って剥がしていきます。 

前面パネルの革剥がし

 

 正面の革を剥がすとネジが5本見えてきます。このネジを外すとレンズにかぶっているカバーを外すことができます。このカバーにはシャッター速度設定つまみと絞り設定つまみがついています。

革を剥がしたところ

 

 次にフィルム室側からレンズを止めているリング状のネジを外します。すると写真のように撮影用のレンズが外れます。このレンズを外すと写真の赤丸の部分に3本のネジが見えます。

ガタツキの原因判明!!

このネジ3本が緩んでいたのでガタついていたのです。

撮影用レンズの取り外し

 

 写真の金色の部分がピント調節レバーによって前後する部分です。この機構とレンズを止めているのは3本の止めネジです。これでは緩むかもなぁ・・・。

焦点調節部

 

 左写真は、ピント調節レバーによって前後する正面の部分です。ここにレンズが2組装着されています。

正面

 

 ここまでで、バラした部品です。基本的にベースボディーにちょっとした肉付けがあるくらいの少ない部品数です。

正面部品

 

 あと、ファインダー用のレンズが緩んでクルクル回ってしまっていました。ネジで締め付けるのかと思ったら、意外と単純に圧着して固定する方式をとっていました。専用工具はありませんので、マイナスドライバーで“クイッ”と曲げてやり固定します。

ファインダー用レンズ

 

 


 

(3)つまみ系の清掃

 

 撮影用レンズの周囲には、シャッター速度設定つまみ、絞り設定つまみがあります。このつまみが長い年月で固着しかけて硬くなっているので、全バラして清掃することにします。

つまみ系の取り外し

 

 つまみ系統の部品も数は少ないです。ただし、順序を間違えるとつまみ系がおかしくなるので、順序だけ覚えておく必要があります。 

つまみ系統の部品

 


 

(4)レンズの清掃

 

 シャッターをバルブにしてレンズを覗くとカビがたくさん生えています。保存状態悪かったのね・・・^^;

 すべては取れないもののバラして清掃します。清掃は「OLYMPUS EEクリーナー」を用います。揮発性が強いので拭き残しが出来難く、素人には良い商品だと思います。

 レンズを触るときには、手袋を装着しています。せっかく拭いても手油でまた汚れてしまうからです。レンズの清掃は細心の注意が必要です。

レンズの分解

 

 


 

(5)ピントグラスの清掃

 

 本体上部にあるのは、撮影用のファインダーです。擦りガラスになっている部分ですが、汚れで黒くくすんでいます。また、二眼レフはファインダー用のレンズを通して、ミラーで反射した後にピントグラス(擦りガラス)で画像となります。したがって、ミラー部分が汚れていると光量が落ちて暗くなってしまいます。

ピントグラスの取り外し

 

 ミラーはご覧のように汚れています。これを清掃するだけでかなりファインダーが明るくなり見やすくなります。

ミラー

 

 

 


 

(6)革張り

 

 本体の修理が完了したので、革張りに入ります。革張りは、まず型紙作りからはじめます。紙は、広告やチラシ、ミスプリ紙など何でもOKです。

 最初に大まかな形を切り出して徐々に正確な形に合わせていきます。穴の部分は、紙の上から鉛筆で擦ると濃淡が現れて簡単に形を把握することができます。

 型紙ができたら、革へ転写して切り出します。これも1回ではなかなかピッタリとは行かないので焦らないで徐々に切り出します。最後は0.1mm単位くらいで切り出していくと上手くピッタリといきます。

型紙

 

 

 


 

(7)修理完了〜♪

 

Before

After

 

 撮影に重要な部分の修理が完了しました。レンズのガタツキも修正できて撮影が可能になりました。また、ファインダーも清掃したので前より数段と明るくなっています。

 革は写真の通り見違えるほど綺麗になりました。塗装の剥がれが大して無かったので新品同様に見えます(笑)

Before

After

 

 背面もかなり汚かったのが、補修できています。やはり、きちんと革が張ってあるとカメラ自身が際立って見えますね。

 

 

 


 

(8)シャッター速度測定

 

シャッター速度測定器を製作したので、このカメラのシャッター速度も計ってみました。

 

Table.8-1 Minoltacord シャッター速度測定

カメラ設定値[s]

LCD表示

1回目[s]

2回目[s]

3回目[s]

4回目[s]

5回目[s]

平均

誤差率[%]

1

開放時間

1.0652

1.0845

1.0624

1.0854

1.0688

1.0733

6.8

シャッター速度

1/1

1/1

1/1

1/1

1/1

1/1.0

0.0

1/2

開放時間

0.5495

0.5584

0.5707

0.5665

0.5680

0.5626

11.1

シャッター速度

1/1

1/1

1/1

1/1

1/1

1/1.0

100.0

1/5

開放時間

0.2345

0.2306

0.2293

0.2364

0.2357

0.2333

14.3

シャッター速度

1/4

1/4

1/4

1/4

1/4

1/4.0

25.0

1/10

開放時間

0.1562

0.1551

0.1550

0.1577

0.1564

0.1561

35.9

シャッター速度

1/6

1/6

1/6

1/6

1/6

1/6.0

66.7

1/25

開放時間

0.0532

0.0556

0.0538

0.0566

0.0556

0.0550

27.2

シャッター速度

1/18

1/17

1/18

1/17

1/17

1/17.4

43.7

1/50

開放時間

0.0340

0.0341

0.0337

0.0323

0.0333

0.0335

40.3

シャッター速度

1/29

1/29

1/29

1/30

1/29

1/29.2

71.2

1/100

開放時間

0.0194

0.0186

0.0189

0.0190

0.0187

0.0189

47.1

シャッター速度

1/51

1/53

1/52

1/52

1/53

1/52.2

91.6

1/250

開放時間

0.0086

0.0085

0.0088

0.0080

0.0086

0.0085

52.9

シャッター速度

1/115

1/117

1/112

1/124

1/115

1/116.6

114.4

1/500

開放時間

0.0053

0.0055

0.0056

0.0055

0.0056

0.0055

63.6

シャッター速度

1/185

1/178

1/175

1/178

1/177

1/178.6

180.0

 

Fig.8-1 Minoltacord シャッター速度誤差率

 

シャッター速度の遅いときは誤差が少ないですが、早くなるにつれて誤差が大きくなっているのが分かります。

これは仕方の無いことでしょう。しかし、現在切れているシャッター速度を把握することで撮影は十分可能です。

 


 

(9)テスト撮影

 

試しに1本撮影してみました。撮影は2003年10月7日(火)に行いました。

撮影場所は@〜B、Hが世田谷区立等々力児童館、C〜Gが等々力渓谷です。

@ F8.0 1/250s

@は、簡易的にレンズの歪みを見るためにフェンスを写しました。

当然ですが、赤い格子は撮影後に付け足したものです。

写真のフェンスと赤い格子が平行なら歪みが少ないと判断します。

この写真を見て分かるとおり少々、フェンスと赤い線が平行になっておらず、フェンスが歪んで写しだされています。

つまり、レンズの周辺が少々流れているということです。

やはり昔のカメラだしレンズも少ないのでこのようになってしまうのでしょう。

A F8.0 1/250s

 

B F4.5 1/250s

 

C F4.0 1/3s

 

D F5.6 1/3s

 

E F5.6 1/2s

 

F F5.6 1/2s

 

G F5.6 1/2s

 

H F4.0 1s

 

これらの写真から、このカメラのレンズは周辺の光量落ちが激しいことや少々のレンズの歪みが確認できます。

年代からすれば当然の結果ですが。

でも、十分撮影可能なカメラになりました♪

ピントグラスも付いているのでピントもバッチリ合わせられます!

 

 


 

(10)あとがき

 

外装の革はかなりボロボロでしたが、本体への痛みが激しくなかったので修理が楽でした。

シャッター、絞りが動いていたのがありがたいです。

しかし、ほかの二眼レフはやったことが無いのでわかりませんが、Minoltacordは正面パネルを開けるのが面倒です。

そして、ネジで止まっている本数から見ても、もう少し良い作りは出来なかったのかなと思ってしまいました。

なにはともあれ、無事に直って良かったです♪

そして、直した6×6判(ブローニー)の中で、このカメラが一番、実用機として使えそうです(笑)

テスト撮影の結果も、申し分無い写りをしていたので満足です♪

細かいことを言えばキリがないですが・・・(^^;)

 

参考文献

“マニュアルカメラシリーズ15 「ミノルタカメラのすべて」 エイムック735” 株式会社竢o版社 p138 (2003-09-30)

 


 

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