Fig.1 製作したシャッター速度測定器

 

フィルムカメラのシャッター速度が計りたかったのですが

測定器が市販されていません。そこで、測定器を自作しました。

 これで、シャッター速度が狂っているカメラでも適正露出で撮影が可能になります。

 測定範囲は1/125〜99秒です。

また、表示はシャッターの開いた時間とシャッター速度の同時表示が可能です。

やはり、撮影者にはシャッター速度の表示がないと不便ですからね。

 


 

1.はじめに 2.測定器の特徴 3.露出とは?
4.開発コンセプト 5.ハードウェア構成 6.ソフトウェア構成
7.使用方法 8.試験測定 9.おわりに

 


 

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1.はじめに

 

クラシックカメラを使用していて疑問に思うことがありました。

「本当に表示とおりのシャッター速度がきれているのだろうか・・・?」

昔のカメラはバネでシャッターをきっているため、経年劣化により

シャッター速度が狂ってしまうのです。

じゃあ、修理すれば正常になるのでは?

しかし、部品が無かったり数万円以上もの莫大な修理代金がかかってしまいます。

では、解決方法は無いものでしょうか。あります!

現状のシャッター速度が計れれば、カメラに表記してある

シャッター速度の数値を読み替えて撮影が行えます。

では、測定器は・・・一般民間用に市販されていません。

そこで、自作することにしました。

 


 

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2.測定器の特徴

 

コンセプトは・・・?

小型、修理するより安価、使用方法が簡単で誰にでも扱えるものを目指しました。

 

利点は・・・?

高額な修理代金を払いカメラを修理しなくても、

シャッター速度が把握できることで

適切な露出条件で撮影が可能になります。

つまり・・・綺麗な写真が撮れることに直結します。

 


 

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3.露出とは?

 

お分かりの方には当たり前のことですが、ここで少々露出について解説します。

露出アンダー

(シャッター速度速すぎ)

適正露出

(シャッター速度適正)

露出オーバー

(シャッター速度遅すぎ)

Fig.2 イメージ写真

 

露出条件が適正値からずれると,どのような影響があるかイメージ写真を元に解説します。

Fig.2に“露出オーバー”,“適正露出”,“露出アンダー”の写真を示します。

ここでは、露出を決定する条件であるうちの絞り値とフィルム感度(ISO)は固定であるものとします。

 まず、“露出オーバー”では背景が白く色が飛んでしまい被写体(電車)と背景が混じり鮮明な写真とは言えません。

また、“露出アンダー”では夜のように全体が暗くなってしまい、色が潰れています。

一方、“適正露出”では被写体も背景もバランスよく写し出されていて適切な写真であることが言えます。

 一般に、安価なコンパクトカメラや初期のオートフォーカスカメラでは、センサーが誤作動してしまい、しばしば適正露出から外れた写真が見受けられます。

以上の事例は皆様も経験があるでしょう。クラシックカメラで、そのような失敗をしないためにもシャッター速度の把握は重要課題です。

これを避けるには・・・

現在のシャッター速度の把握が必要!

 


 

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4.開発コンセプト

 

 今回開発するシャッター速度測定器は、手軽に誰でも使用できるものを目指し、簡単な取り扱い方法で測定できるものにします。

 

Fig.3 システム概観図

Fig.3にシステムの概観図を示します。目標とする使用方法は、Fig.3のように測定器を配置し、カメラのシャッターを切ることによって測定を行えるものを目指します。

シャッターが一瞬開くと、光源よりレンズを通して測定器の受光素子にシャッターの開いた時間だけ光が入ります。

その時間を計測してPICマイコンで液晶ディスプレイに表示します。

 


 

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5.ハードウェア構成

 

Fig.4に今回設計したハードウェアのブロック図を示します。

Fig.4 ハードウェア構成

 

受光素子より光に応じた電圧を取り出し、扱いやすいようにアンプで増幅します。

しかし、このままでは緩やかな傾斜をもった信号波形であるため、信号の立ち上がりを急峻に加工しPICマイコンに入力します。

 このPIC16F84Aでは、計測・計算を行い基板内の省スペース化・省電力化を図ります。

計測の源となるクロックには高精度水晶発振子12.8[MHz]を使用します。

表示装置は、16文字×2桁の液晶ディスプレイ(Liquid Crystal DisplayLCD)を採用します。

以上のように回路は至って少ない部品で構成しています。

 

回路図〜

Fig.5 回路図

回路図はFig.5のようにしました。PICとLCDの接続、リセット回路はよく使われているタイプです。

オリジナルな回路は図面上の左側部分です。受光素子のフォトトランジスタには東芝TPS601Aを3つ並列に接続しています。

これは、このフォトトランジスタの指向性が極めて強いので、光軸がずれると素子が反応しないのを回避する目的です。

そして、フォトトランジスタの出力を2SC1815でスイッチングしてやり、ディジタル信号に変換しています。

最後に測定可能な光量であるかを判断するためにLEDを接続して利便性を図っています。

 


 

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6.ソフトウェア構成

 

Fig.6 プログラムのフローチャート

 

Fig.6PICマイコンに焼き込んだプログラムのフローチャートを示します。

時間を正確に計測するためPICマイコンに備わっている“タイマー0”を使用したインターバルタイマを実行します。

このインターバルタイマは一定周期で割り込みを入れるものです。

割り込み処理では、受光の有無を確認し受光があればレジスタに加算し保存していきます。

また、受光が無いときは何もせずにメインプログラムに戻ります。

メインプログラムは、Fig.6の右側に示した“START”から始まります。

まず各種初期設定を行い、LCDに初期状態を表示します。

次に測定SWの状態を確認しONされていなければ、ループを繰り返しSWの状態を監視します。

SWONならば、割り込み処理で得られた時間データをコピーした上でOP-TIME(シャッターの開いていた時間)用に32Bit-10進変換を行います。

そして、先ほどでも使用した時間データをSHUTTER表示用に変換するため除算を行い、さらに32Bit-10進変換を実行します。

それぞれの10進データをLCDに表示して処理を終えるものです。

 

ここで、注目すべき点は、レジスタの扱い方です。

PICは1つのレジスタで8ビットの領域しかありません。つまりカウントしたものを加算していくと

(1111 1111)16=(256)10

までしかカウントできないのです。

また、シャッター速度を算出するために割り算を行いますが、

レジスタに10進数で複数のレジスタに記録すると割り算が難しくなります。

 

Fig.7 レジスタの扱い方

 

そこで、Fig.7のように、このプログラムでは4つのレジスタを1つのレジスタと見立てて2進数で記録しています。

つまり、(4つのレジスタ)×(8ビット)=32ビット長さのレジスタに記録しています。すると、

(1111 1111 1111 1111 1111 1111 1111 1111)2=(FF FF FF FF)16=(4294967295)10

となるわけです。これだけあればカウントする数が十分満足するというわけです。

 


 

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7.使用方法

 

使用方法はとても簡単です。以下の手順に沿って測定を行います。

Fig.8 測定風景

〜測定方法〜

(1)Fig.8の形に測定器を配置する。
(2)測定器の電源を入れ,リセットボタンを押す。
(3)カメラの巻き上げレバーを巻いて絞りを設定し撮影可能な状態にする
(4)測定スイッチを押しシャッターをきる
(5)結果は液晶に表示される。

 

非常に簡単な取り扱い方法で測定可能

 


 

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8.試験測定

 

実際に4つのカメラで測定を行ってみました。

Table.8-1 TENAX

カメラ設定値

LCD表示

1回目[s]

2回目[s]

3回目[s]

4回目[s]

5回目[s]

平均

誤差率[%]

1s

開放時間

1.0392

1.0915

1.0493

1.0465

1.0777

1.0608

5.7

シャッター速度

1

1

1

1

1

1.0

0.0

1/2s

開放時間

0.4394

0.4436

0.457

0.4632

0.4753

0.4557

9.7

シャッター速度

1/2

1/2

1/2

1/2

1/2

1/2.0

0.0

1/5s

開放時間

0.1518

0.1592

0.1635

0.1586

0.1655

0.1597

25.2

シャッター速度

1/6

1/6

1/6

1/6

1/6

1/6.0

16.7

1/10s

開放時間

0.084

0.0903

0.0822

0.0854

0.0864

0.0857

16.7

シャッター速度

1/11

1/11

1/12

1/11

1/11

1/11.2

10.7

1/25s

開放時間

0.0449

0.0465

0.0448

0.0464

0.0453

0.0456

12.2

シャッター速度

1/22

1/21

1/22

1/21

1/22

1/21.6

15.7

1/50s

開放時間

0.0239

0.023

0.0233

0.0241

0.0234

0.0235

15.0

シャッター速度

1/41

1/43

1/42

1/41

1/42

1/41.8

19.6

1/100s

開放時間

0.0156

0.0168

0.0158

0.0154

0.162

0.0451

77.8

シャッター速度

1/63

1/59

1/63

1/64

1/61

1/62.0

61.3

1/150s

開放時間

0.0157

0.0153

0.0148

0.0153

0.0146

0.0151

56.0

シャッター速度

1/63

1/65

1/67

1/65

1/68

1/65.6

128.7

 

Table.8-2 Nifcarette

カメラ設定値

LCD表示

1回目[s]

2回目[s]

3回目[s]

4回目[s]

5回目[s]

平均

誤差率[%]

1/25s

開放時間

0.0485

0.0486

0.0495

0.0471

0.0481

0.0484

17.3

シャッター速度

1/20

1/20

1/20

1/21

1/20

1/20.2

23.8

1/50s

開放時間

0.0325

0.0319

0.033

0.0347

0.0325

0.0329

39.2

シャッター速度

1/30

1/31

1/30

1/28

1/30

1/29.8

67.8

1/100s

開放時間

0.0268

0.0276

0.027

0.0262

0.0256

0.0266

62.5

シャッター速度

1/37

1/36

1/37

1/38

1/39

1/37.4

167.4

Table.8-3 Canon EOS5

カメラ設定値

LCD表示

1回目[s]

2回目[s]

3回目[s]

4回目[s]

5回目[s]

平均

誤差率[%]

1s

開放時間

0.9879

0.9875

0.9872

0.9878

0.9883

0.9877

1.2

シャッター速度

1

1

1

1

1

1.0

0.0

1/2s

開放時間

0.4951

0.4950

0.4950

0.4952

0.4946

0.4950

1.0

シャッター速度

1/2

1/2

1/2

1/2

1/2

1/2.0

0.0

1/6s

開放時間

0.1762

0.1764

0.1763

0.1764

0.1763

0.1763

5.5

シャッター速度

1/5

1/5

1/5

1/5

1/5

1/5.0

20.0

1/10s

開放時間

0.0891

0.0893

0.0894

0.0892

0.0892

0.0892

12.1

シャッター速度

1/11

1/11

1/11

1/11

1/11

1/11

9.1

1/30s

開放時間

0.0329

0.0327

0.0328

0.0329

0.0330

0.0329

1.4

シャッター速度

1/30

1/30

1/30

1/30

1/30

1/30

0.0

1/60s

開放時間

0.0176

0.0174

0.0176

0.0176

0.0175

0.0175

5.0

シャッター速度

1/56

1/57

1/56

1/56

1/57

1/56.4

6.4

1/90s

開放時間

0.0128

0.013

0.013

0.0131

0.0129

0.0130

14.3

シャッター速度

1/77

1/76

1/76

1/76

1/77

1/76.4

17.8

1/125s

開放時間

0.0097

0.0094

0.0097

0.0096

0.0095

0.0096

16.5

シャッター速度

1/102

1/105

1/102

1/103

1/104

1/103.2

21.1

 

Table.8-4 KOWA KALLO35

カメラ設定値

LCD表示

1回目[s]

2回目[s]

3回目[s]

4回目[s]

5回目[s]

平均

誤差率[%]

1s

開放時間

1.1122

1.1009

1.0856

1.0982

1.1176

1.1029

9.3

シャッター速度

1

1

1

1

1

1.0

0.0

1/2s

開放時間

0.6222

0.6213

0.6305

0.6525

0.6361

0.6325

21.0

シャッター速度

1

1

1

1

1

1.0

100.0

1/5s

開放時間

0.23

0.2313

0.2371

0.2381

0.2387

0.2350

14.9

シャッター速度

1/4

1/4

1/4

1/4

1/4

1/4.0

25.0

1/10s

開放時間

0.1125

0.1232

0.1213

0.1213

0.1272

0.1211

17.4

シャッター速度

1/8

1/8

1/8

1/8

1/7

1/7.8

28.2

1/25s

開放時間

0.0444

0.0443

0.0452

0.0454

0.0457

0.0450

11.1

シャッター速度

1/22

1/22

1/22

1/21

1/21

1/21.6

15.7

1/50s

開放時間

0.0234

0.0233

0.0231

0.0236

0.0234

0.0234

14.4

シャッター速度

1/42

1/42

1/43

1/42

1/42

1/42.2

18.5

1/100s

開放時間

0.0139

0.0138

0.0141

0.0139

0.014

0.0139

28.3

シャッター速度

1/71

1/72

1/70

1/71

1/71

1/71.0

40.8

☆ここでは、真値を測定平均、理論値をカメラ設定値にしている。

 

Fig.9 誤差率グラフ

 

☆ここでの誤差率は開放時間のものです。

 

 

測定結果は、Table.8-1〜8-4とFig.9のようになりました。

測定データ(Table.8-1〜8-4)を見ると、ここでの誤差率20%位までは許容誤差だと思います。

当たり前ですが「Canon EOS5」は一番誤差が少ないですね。

しかし、「C.P.GOERZ TENAX」(1923年蛇腹カメラ)と「日独写真機商店 Nifcarette」(1929年ベスト版カメラ)

とても大きな誤差を示しています。

ここで、気になっているのはグラフの形に共通点があることです。

おそらく、測定器自身の誤差が影響しているものと考えられます。

 


 

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9.おわりに

 

多少不出来な部分や弱点もありますが、測定できるものができました。

カメラを趣味としている人の身近に、このようなものがあれば有益な道具になると思います。

しかし、ちょっと使うには物足りないスペックなので第2号機を製作予定です!

いつになるかは分かりませんが・・・(^^;)

 


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