ヴァイオリンについて(1)
(10)ヴァイオリンを弾く人はヴィオラも弾きましょう!
 ヴァイオリンという楽器は、かなり強引な荒っぽい力ずくのボウイングでも、それなりにヴァイオリンらしい音が鳴ってくれるのですが、ヴィオラという楽器はそういったことができなくて、そんな弾き方をしようものなら、もう、とんでもないこの世のものとも思えない汚い下品な音が出てしまうのです(ぼくがオケでよく出してるような音です)。あくまでも楽器には優しく、愛情をもって接し、ほめたり、なだめたり、おだてたりしながら弾かないとすぐにヘソを曲げてしまいます。

 ヴィオラという楽器を弾くときは、その楽器のいい音がでる弾き方(いい音が出る弓のスピード、初速度、圧力、弦に弓を接触させる場所、ビブラートの幅と速さ、弦を押さえる強さ、等)を探しながら弾かないとだめなんですねえ。楽器毎にいい音がでる弾き方がすごく違っていて、この違いはヴァイオリンよりもはるかに大きいのです。従って、ヴィオラ弾きは、まず、自分の楽器のいい音がでる弾き方を探さなくてはならないんですねえ。

 下手な人がヴィオラを弾くと音程がない単なる雑音マシーンのようになってしまいますが、上手な人がヴィオラを弾くと、なんとも優雅にして甘美な音がします。高い音になるほどその響きはエロッティシズムに満ち、あ〜ゾクゾクする〜う。って、こういうところに魅せられてヴィオラを弾いている人が、多いんじゃないかな?

 実は、このような楽器毎にいい音が出る弾き方が違うというのは、ヴァイオリンでも同じことなのです。ですから、本来ヴァイオリンも楽器毎のいい音の出し方探しをするべきなのです。ヴィオラを弾けばそのことが良く分かるはずです。だから、ヴァイオリンを弾く人は、必ずヴィオラも弾きましょう!でも、逆にヴィオラ奏者はヴァイオリンを弾かなくてもいいでしょう。ほとんどの人は、前に弾いてたと思いますので。

(9)濃い音はどうやって出すのか?-(右手編)
 濃い音、言い替えれば質量がある音、訴え掛ける力のある音、しつこい音、粘っこい音、いろいろな言い方があると思いますが、理科系の方には高周波成分の多い音、と言えば分かりやすいと思います。

 黒板に爪を立ててひっかくと、殺人音波が発生しますよね。あの嫌な音をフルートの音のようにきれいなサインカーブの波形に加えたのが、弦楽器の音だとぼくは思うんですよ。上手な人が弾くヴァイオリンの音はすごく気持ちいいですよね。ビブラートで作った音ではなく、弓だけで出てくる音なのに、それだけですでに美しい!思うに、美しい音と気持ち悪い音は、紙一重なのではないでしょうか。果物も熟してこれ以上日が経つと腐って食べられなくなるという直前が一番おいしいですよね。

 このような高周波成分を多く含んだ音を出すためには、弓の毛にある無数のギザギザで、弦をカリカリと引っ掻くようなイメージで、弓の毛全部を弦に密着させて弾くようにします。マツヤニはあくまでも補助的なものでしか過ぎないでしょう。弓の毛のギザギザ(キューティクル)が擦り減ってくると、黒板をひっかくと出てくるのと同じ、殺人音波が減ってくるので、何となく音に張りというか重さがなくなってしまいます。こうなったら毛の張り替えをした方がいいでしょうね。

 しかし、何事もやりすぎは考えものです。いくら高周波成分を増やせばいいと言っても、あまりギューギューやりすぎると、歯が浮いたり、耳から首筋にかけて鳥肌が立つかも(慣れれば、それはそれで心地いいかも!)。

(8)トリルの高速化
 各指のトリルの練習だけでは、効率的ではないようですし、なんだか指のうごきまでビッコになってしまうような感じがします(実体験に基づいて)。そこで、ぼくはトリルの練習には、何か常動曲の練習もセットにするべきだと思います。例えば、クロイツェルの2番とかパガニーニの常動曲などです。

 それから余計な力を抜くようにすることも、トリルの高速化に案外重要ではないでしょうか。そしてリラックスした状態で、あまり指を上下にばたつかせないで、なるべく小さく動かすようにすればいいでしょう。ここで、よく「トリルは痙攣(けいれん)」だという説を聞くのですが、短い音符だとそれでもごまかせるでしょうが、全音符に付いてるような場合は無理でしょうね。

 それから、トリルを高速化させようと思って特別な練習を開始しても、なかなか効果が現われない人もいるでしょう。しかし、そのような方も半年根気良く続けていれば確実に速くなると思います。というのは筋肉には、瞬発力はあるけど持久力がない筋肉と、持久力はあるけど瞬発力がない筋肉とがあるそうなので、これらの筋肉のバランスを整えて最適化されるまで、筋肉を作り替えていかなくてはならないのです。それには半年はかかると思います(実体験に基づく)。まれに最初からトリルを速くできる人もいますが、その人は瞬発力はあるけど持久力がない筋肉の割合が多いということになります。

(7)練習の基本
 あたりまえのことですが、練習の基本は繰り返しだと思います。例えばうまく弾けない小節があったら、まず確実に弾けるスピードで何回も繰り返して、それから少し前の小節から続けて弾いてこれも何回も繰り返して、そして徐々にスピードアップしていけばいいでしょう。ただ、繰り返すといっても漫然とやるのではなく、1回毎に自分の音を注意深く聴き、どこがどう違うのか、どうすればよくなるのか、考えることが必要です。考えなしに練習しても進歩はないでしょう。

 ある程度、曲が覚えられたらなるべく楽譜から目を離して、または目を閉じて弾くのがいいと思います。少しは自分の出した音を客観的に聴けるようになります。また、自分の演奏を録音して聴くのもいいですね。意外と、とんでもない音程で弾いていたりするのがわかったりします。

(6)ビブラート
 演奏者の個性を最も強く、また簡単に手っ取り早く表現できる手段だと思います。しかしアマチュア(私もそうだが)のほとんどの方は、各音の後半でビブラートをかけるのを止めてしまっているようです。各音の最後までしっかりビブラートをかけることで、音の感じがだいぶ違ってくると思います。

 私はビブラートが得意でないということもあるのですが、ビブラートにあまり頼り過ぎるのも考えものではないかと思います。ビブラートを掛けすぎた音を聴くと、心が休まることがないというか、リラックスできない、ひどいときはバスに悪酔いするという感じさえします。ときと場合によって掛け具合、つまり、ビブラートの速さと幅を調整するべきですね。

 ビブラートで音程を変化させる範囲は、基準音の下側にかけるか、上下均等にかけるか、または上側にかけるか、大きく分けて3通りあると思いますが、私は通常、上下均等にかけています(そのつもりです)。

 ビブラートで音にアクセントを付けるときは、音の出だしに極めて大きな幅でかつ速いビブラートをかけ、その後、ビブラートの幅を縮めるようにします。

(5)ボーイングの決め方について
 各小節の頭がダウンになるのが自然です。従ってアーフタクトはアップとするのが妥当ですね。しかし、アーフタクトの音と次の小節の頭の音にスラーがかかっているときやタイになっているときは、ダウンで始めるのが良いでしょう。例えばブラームスの交響曲第4番の出だしがそうですね。

 また、モーツァルトの交響曲40番の出だしはアップで始まるのが自然ですが、ダウンで始める人もいるようです。プロのオケでも両方ありますね。ちなみに私は、ダウンからはじめると、音が濃いというかネバっこくなる感じがして、とてもモーツァルトとマッチしないように思うので、やっぱりアップではじめた方がいいと思います。

 それではワルツなどの3拍子ではどうするか?まあ、ダウン-アップ-アップでしょうね。

 それから、ダウンは自然なディクレッシェンド、アップは自然なクレッシェンドがつきます。これをうまく利用してボーイングを決めるべきでしょう。

 ところで、アマチュアの多くの方は、弓先で急激に音が弱まる傾向があります。そうならないために、弓先に行くに従い弦に押付ける力を増加させるか、あるいは弓のスピードを上げる必要があります。これが意外とできていないようですね。簡単なことだと思うんだけどなあ。

(4)同時に4つのCをどうやって押さえるのか?
 う〜む、これは、私もまだできていません。同時に3つのCが限界です。4つめはどうしても3指の位置が動いてしまいます。しかし、もう少し指が柔軟であればとどくようになると思います。つまり手の大きさとしては十分満足しているということです。しかし、ぼくの手はそんなに大きくありません。指も短い方です。

 通常の構えの手の形とは全く異なる形にしなくては取れないと思います。これはビオラのT.T.先生から教わったのですが、親指を箱の下に入れるのだそうです。一見するとチェロの構えのようになります。本当にとれるかどうかみなさんも試してみてください。あくまでも同時に押さえるのですよ。

 余談ですが、以前、テオフィルス室内管弦楽団と新宿交響楽団のコンマスだったルカ君なら、できるかもしれません。彼は手が大きかったからなあ。カプリスもよく弾いてたし。。。たまには山口から遊びにきてよ!

(3)手の小さい人でも10度はとどく!
 「私は手が小さくて、10度なんてとても無理だわ!」と思っていらっしゃる方、試してみてください。E線上のセカンドポジションで、小指を伸ばしてDを押さえてください。そして同時に人指し指を半音分引き下げてF#を押さえられますか?これが10度の間隔です。どんな手の小さな方でも、小指の半音伸ばしと、人差し指の半音ずり下げはできるでしょう。それを同時にやればいいということなのです。ここで、肝心なのは人指し指を十分引き下げるということです。これには多少人指し指の柔軟性が必要となります。つまり10度というのは超絶技巧でもなんでもなく、通常の構えでとどく範囲なのです。

 10度をとる時、ほとんどの人は小指を伸ばす事ばかりに気を取られてしまいますね(かつて私もそうだった)。実は人指し指を半音下げた形をつくるのがミソなのですね。9度か10度かの違いは人指し指の下げ具合で調整するようにしています。間違った教え方として、「まず、小指の位置を固定して、それから小指が動かないようにしながら、人差し指を引っぱり下げる。」というのがあります。このやりかたでは、ブラームスのVnコンチェルトの1楽章は弾けても、ブルッフのVnコンチェルトの終楽章にでてくるような、上昇形はまず弾けないでしょうね。

 人差し指を十分引き下げても、まだとどかない人は、右肘をもっと中にいれて、手の甲がネックよりも上に出るようにしてみてください。それでもまだとどかない人は、ローポジションで10度を取らないで、なるべく高いポジションで押さえるようにしましょう。それでもまだとどかない人は、7/8サイズの楽器に替えましょう。それでもまだとどかない人は、取り敢えずそういう部分は弾かないか、3度に替えて弾くしかありませんね。

(2)右肘は下げるべきか、上げるべきか?
 ヨアヒムの時代では右肘を下げた(極端な場合、肘を体に密着させる)ボーイングが主流だったと聞いています。現在ではもちろん、肘の高さは弦に合わせて上下するのが主流でしょう。カール・フレッシュの『ヴァイオリン演奏の技法』という本の汪礎技術、4右腕、c)運弓法で、肘が下がっていることによる問題が指摘されています。

 しかし、ぼくの耳には、なぜか肘を下げた方が濃い音がするように聞こえるんですよね。でもやっぱり、見た感じは、なんか窮屈そうで、移弦がやりにくそうです。まあ、好みの問題でしょうか。上手に弾ければどちらでもよいのではと思います。ちなみにぼくは、後者です。連続ダウンボウなどは思いっきり肘を高く上げて弾いたりします。

(1)ポジションについて
 篠崎教本で勉強された方(私もそうだが)は、1stポジションと3rdポジション中心にポジション移動を考えているようです。そして極力ポジション移動をしないで弾こうとしているような感じもします。

 これは発想を根本から変えるべきだと思います。何ポジションで何指を押さえれば、楽譜に示された音を押さえられるか、という発想ではなく、楽譜に示された音は弦のどのくらいの位置にあるのかを知って、その位置を押さえるのに一番合理的な指を使うといった発想です。つまり発想の逆転で、どの指で押さえるかは後から決まることだと思うのですよ。そうすると、ポジション移動の回数はもっと増えるでしょうし、半音分のポジション移動や、ポジションは動かさずに1指を半音下げたり、替指するといったことが増えると思います。

 ゆっくりとしたメロディーを弾くときに、このような一見もぞもぞしたようなポジション移動ができる人とできない人で、歌いかたに大きな差がでてきます。例えば、ラフマニノフのヴォカリーズ、クライスラーのロンディーノ、グルックのメロディーなどです。レッスンの友社から出ている江藤先生の校訂指導による楽譜を拝見しますと、先生の指使いもかなりもぞもぞしてますねえ。