(20)フレーズの歌い方(8 Nov 98)
オーケストラの練習のときに、よく指揮者から「そこは1stヴァイオリンさんはもっと歌って!」とか、「もっと感情を込めてたっぷりと弾いてください。」などと言われることがあります。そこで音量をアップしてかつビブラートもたっぷりかけて弾いてみると、「ん〜、まだ足りないなあ。少しクレッションドぎみに弾いてみて。」と言われ、指示された通りに弾くと、「ん〜、まあ、だいたいそんな感じだな。」と、一応は指示した通り1stVnが弾いているので、なんとなく自分がイメージしていたものとは違っているような気がしても、指揮者はそれで妥協してしまう。こういった光景はどのオーケストラでもよく見られますね。もちろんヴァイオリンに限らずどんな楽器でも同じことがよくあります。
でもなぜ、指揮者は、自分が指示した通りに1stVnが弾いたはずなのに、イメージしていたものと違っているような気がしたのでしょうか?
恐らくそれは、テンポ、すなわち速度に問題があるのだと思います。速度といってもこの場合は速度の変化のことです。この変化はあまりに微妙であるため、楽譜にはaccelerandoやstringendo,ritardando,ritenuto,a
tempoなどはたいてい書いてありません。また、フレーズをイメージしている指揮者本人にも気付かない位の程度のもので、従って、具体的に言葉に出して指示することはないわけです。また、多くの指揮者は、頂点部分の音ばかり気になってしまい、その前や後の部分に問題があるとは思わないようです。
こういう場合は、プレイヤーがある程度指揮者のやりたいことを察知して弾かなくてはなりません。それでは(ここまで、少々話が本題からそれましたが、)、フレーズを歌うときには、速度をどう変化させればいいのでしょうか?
私の場合は、次のようにしています。
@歌いたいフレーズの範囲を見定める(たいてい4小節かな)。
Aこのフレーズの頂点(一番主張したいところ)を見つける。フレーズ中の一番高い音が頂点になることが多い。もちろんそうじゃないときもある。
Bフレーズの頭からこの頂点の直前までの部分を最初に設定されているテンポよりもほんの少しだけ速くする。
CBで速くした分を取り戻すかのように、頂点で速度を遅くする(頂点の音を伸ばす)。従ってフレーズが終わったときは、テンポ通りに弾いたのと同じ時間経過となっている。
DもしもCでやりすぎてしまったら、頂点の後からフレーズの最後までの間の速度をまた少しだけ速くして、なんとか帳尻を合わせる。
ここで注意すべきは、これはあくまでも人に気付かれない範囲でやる微妙な細工であるという点です。気付かれてしまうとわざとらしく聞こえたり、どんくさくなってしまうでしょう。この速度に関する微妙な細工とcrescendoやdecrescendo,vibratoを併用すれば、いかにもフレーズを歌っているように聞こえるようになるでしょう。この弾き方を『周辺縮め、頂点伸ばし』というように覚えて、実践で使ってみてくださいね。
もちろんフレーズの歌い方は他にもあると思いますが、「速度の変化を如何にしてつけるか。」ということに着眼して研究すると、表現の幅は今よりもっと広がると思いますよ。例えば、上で説明したフレーズの歌い方はどちらかというと、passionato(感情的に)の場合で、全く速度変化を付けなければpastorale(牧歌的)、頂点前の部分を遅くするとpesante(重い)とかgrave(おごさかに)といった感じになります。普通はこういうことを無意識に行うことが、その人の音楽性であり才能であると思われているのかもしれません。でもこれを一つの技(?)と心得て意図的に使い分けてもいいのではないでしょうか。
「本当にこれで歌うように聞こえるのか?」と疑問に思っているそこのあなた!どんな曲でもいいから試してみてください(例えばメンデルスゾーンやブルッフの2楽章とか)。ただしやりすぎには注意しましょう。あくまでもさりげなく気付かれない程度にね!でもやりすぎもときには快感かも。
(19)弓に張る毛の本数は?(18 Oct 98)
ヴァイオリンの弓に張られている毛の本数は何本かご存じですか?−一般には130本だとか140とか言われています。しかし、弓によっては年を取ってだいぶ弱っているのもあるし、作られてまだ1年も経っていないような、若くて張りのあるピチピチしているような弓もあります。これらの弓に一律に同じ本数の毛を張っても良いのでしょうか?
意外と知られていないことのようですが、実は弓に張る毛の本数は、弓の状態を見て弓毎に微妙に調節されるべきものだと私は思います。つまり若くて張りの強い弓には多めの毛でもOKですし、年を取ったりもともと材質的に少し弱い場合は、毛の本数を少なくした方がいいでしょう。しかし、多くの職人さんはまるで決まりごとのようにゲージ(スパゲッティの本数を計るのと同じ原理の金具)で毛の束から抜き取り、毛替えに来たお客さんの弓に張っているようです。
私の使っている弓も100年まではいかないのですが、だいぶ若い頃に比べたら張りは落ちてきているのではと思われます。ですから弓の毛替えを出す時は「少なめでお願いします。」というようにしています。そしてでき上がってきた弓を張ってしばらく弾いて、弓の反り具合に変化がなければOK、毛の張力に負けて木がまっすぐになっていたら毛が多すぎると判断します。このときは思いきって毛を適当な本数間引きします。
みなさんの弓は毛の張力に負けてはいませんか? もしも負けているようでしたら、思いきって毛を数本間引きしてはどうでしょうか? あるいはもしも反り自体がだいぶ戻ってしまっている、そこまでひどくなっている場合は、職人さんに反りを付けをしてもらうことができます。でもこの反り付け作業は、弓を熱風であぶって両手と膝を使ってグイグイと曲げるそうなので、木にとっては本当はあまりいいことではないと思うんですよね。反りは付くけど今よりもっとやわになるような気がして、私はまだやってもらったことがありません。もしも反り付けをしてもらおうとお考えでしたら、十分職人さんと相談してから決めた方がいいと思いますよ。
(18)フージヤーマーノーゲーイーシャ〜(22 Sep 98)
曲の中に連続して同じフレーズが出てくると、弾いている途中でいったい何回弾いたのかわからなくなることがありませんか?
そんなときは、適当に言葉をあてはめると簡単に弾けるようになります。例えば、チャイコフスキーの弦楽セレナーデの第2楽章ワルツの1stVnと2ndVnの29小節目の2拍目から「フージヤーマーノーゲーイーシャ〜」と頭のなかで歌いながら弾くと、すごく弾きやすくなります。
他にも5連符は「イケブクロ」とか「オカチマチ」、「タカシマヤ」などをあてはめると弾きやすいですね。例えば、ドボルザークの新世界の第3楽章の最後のビオラパートで、6連符から5連符-4連符-3連符となるところは、「ゴモクメシ、タベタラ、ダメダ、ヨ」と言葉をあてはめると、とても弾きやすくなります。
実は、ぼくは言葉とフレーズは切っても切れない関係にあるように思うんですよね。言葉にできないフレーズはなかなか練習しても弾けない。あてはめる言葉はメチャクチャだし意味もほとんどないんだけど、とにかく何か言葉を当てはめたい。そういえば子供の頃、Vnの先生が、アイネクの弾き方を説明するとき、「ヤン、タヤン、タヤタタタタ〜ン、ヤン、タヤン、タヤタタタタ〜ン」と歌ったときはちょっとしたカルチャーショックを受けましたね。「ヤン」なんて言葉は日本で暮らす限りそうそう耳にする言葉ではないと思います。これを「ヤン」ではなく日本語により近い言葉を当てはめてみると、例えば、「エイ、サエイ、サエイササササ〜、エイ、サエイ、サエイササササ〜」!?ん〜やっぱりなんとなく変だ。しっくりこない。リズム感が違う。このようにしてみると弾いているとき、頭のなかでどんな言葉を当てはめるかによって、出てくる音はずいぶん違ってくるような気がします。
「フージヤーマー」は着物を着た芸者さんがシャナリシャナリしている感じで、それなりにフレーズのイメージに合っているとぼくは思うんですけど、変ですか?
(17)磁石をつかった板厚ゲージ(10 Jul 98)
昨年、友人のY氏に頼まれて、ドイツで開発されたという板厚ゲージの模倣品を作りました。このゲージは楽器職人なら誰でも持っているそうなのです。このゲージを使えば、楽器を分解することなく、楽器の表、裏、側面の板厚を簡単に計れるという、超スグレものなのです。しかし値段は2万円ぐらいするとか。知り合いの職人さんが持っていたこのゲージを見せてもらったところ、ごく簡単な原理で誰にでも作れそう(本体は筒状のたしかアルミ製で、中は全く見えなかったけど)。まず、ハンズで適当なサイズのボタン型磁石(新潟精機株式会社製、φ12×4、850ガウス、6個入、品番M-7)を買って、他にガット弦を入れておく筒状の透明ケース(折れてしまったので捨てようと思っていたが、内径がちょうど磁石よりもちょっとだけ大きくてうまく使えた)、それにφ0.3mm程度の針金(家にあった)を利用しました。
動作原理はいたって簡単です。まず板を挟んで2つの磁石を吸引させます。一方の磁石にばねを付けて、このばねを徐々に引っぱります。あるところまでばねを引っぱると、ばねの引っぱる力に対して2つの磁石の吸引力が抗しきれずに離れます。この離れる直前のばねの伸び量が、板の厚み(=2つの磁石の距離)に反比例するので、板の厚みを計測できるというわけです。おそらく板の厚みの自乗に反比例すると思います。厳密には板の透磁率や磁石の形状により必ずしもきちんと距離の自乗に反比例していないかもしれません。従って、このゲージを使うためには、前もって幾つかの厚みの異なる板サンプルで実験してデータを取り、これに基づいて換算表やグラフを作っておく必要があると思います。
さて、この際だから、作り方も説明しておきます。興味のある方、または仕事上必要な方は自作してみてください。
まず、最初に針金でばねを作ります。まず、針金を巻きやすくするために焼なましをします。真直ぐに伸ばした針金(確か2mぐらいだったと思います)を端からゆっくりゆっくりとガスバーナーであぶってそのまま放置してさまします。次に鉛筆に紙を適当に巻いて、その上に針金を約50回巻きます。このとき、なるべくすき間を開けずにぴっちりと巻いて下さい。次に焼入れをします。ばねをガスバーナーで赤くなるまで十分に加熱して、すばやく水の中に入れてください。これでばねの完成です。
次にこのばねの一端と磁石をアロンアルファなどで固定します。別にアロンアルファでなくても、しっかり固定できればなんでも構いません。ばねの多端側はフックになるように曲げて、透明ケースの端に引っかけるようにしますが、それは透明ケースに入れてから適当に調整してください。
次に、筒状の透明ケースを約20cm程度の長さにカットします。次に磁石を着けたばねを透明ケースの中に入れます。そして、ケースの端から磁石2つ分の厚み8mmに2mm程度を加えた約11mmのところ(磁石とばねの間)に穴を開けます(楽器の内側に入れる磁石は1個で、ゲージ本体側には2個くっつけて使いました。)。穴は4箇所ぐらいでいいと思います。この位置は、磁石がばねに引っぱられて飛び上がった時のストップ位置になります。幸い弦を入れている透明ケースは、メウチで穴をあけるとバリが内側に大きくめくり上がり、これがそのままストッパとして使えました(注意:穴を開けてからだと磁石を着けたばねはストッパに引っかかってケース内に入りませんので、入れた状態で穴を開けるようにしてください。)。
後は、透明ケースの端をフエルトまたは厚紙などで蓋をして(板に傷をつけないため)、それから透明ケースに目盛を着けたテープを貼れば完成です。。。。。。どうです、簡単でしょ!
(16)音程を良くするには、、(長くてゴメンナサイ)(20 Mar 98)
巷では、音程を良くするには、「ひたすらスケールを練習すればいい」と言われていますね。確かに、スケールを練習すれば、ポジション移動が正確になり、自分の意図する場所に再現性よく指が行くようなりますね。そういう意味では自分の持っている音程に合わせることができるようになるので、音程がよくなると言えるかもしれません。また、開放弦と同音や、その上下5度の音程は比較的容易に合っているかどうか、聞き分けることができるでしょう。例えば、C-dur、G-dur、D-dur、などは開放弦が使えるので音程を合わせやすいでしょう。しかし、Es-dur、As-dur、Des-dur、となってくるとどうでしょうか。開放弦を使えないので、音程が合っているかどうか分からなくなりませんか。こういう場合の音程はいったいどうやって良くすればいいのでしょうか?
私は、音程を良くするためには、まず何よりも、正確な音程を記憶しなくてはだめだと思うんですよ。そのためにはヴァイオリンを弾いているだけでは難しいと思います。正確な音程を記憶していなければ、自分の弾いている音程が合っているのかどうか判断できない、そうは思いませんか。合っているかどうか判断できないのに、スケールの練習をしているだけで音程を良くするのは難しいのではないでしょうか。ただ、音程には絶対的な音程と相対的な音程がありますので、ひたすらスケールを練習した結果、相対的な音程を身に付け、音程が良くなる、ということはあるかもしれません。でもそれってすごく遠回りしてる気がします。
才能教育では、スケールをさほど取り上げて生徒にやらせるということはないそうです。しかし、それでも才能教育出身の方の音程に問題があるなんて全く感じません。それどころかほとんどの方の音程は正確だと思います。それは、徹底的に正確な音を聞かせ、覚え込ませているからではないでしょうか。
大学のオケに入って、初めてヴァイオリンを弾き始めたという人で、よく、指や弓はスゴイかっこになってて、ポジションなんて無茶苦茶であるにもかかわらず、なぜか音程だけは合っている、なんて方がいます。こういう方は、まず間違いなく以前何か楽器をやっていた人です。それも多くはピアノのようです。つまり、ヴァイオリンを始める前から、正確な音程が頭に入っていたんだと思います。
ヴァイオリンを習い始めた小さい頃、有無をいわさず、わけも分からずスケールをやらされていた、そんな経験の持ち主は結構多いと思います。私がヴァイオリンを習い始めたのは8才のときでしたが、今振り返っても、あれは全くといっていいほど、何の効果もなかったとように思います。「ここは指をくっつけて」、「ここは指1個分空ける」、「ここは小指を延ばす」とか、そんな教え方で音程が良くなるんでしょうか。あの教師は手の形だけで音程が取れるようにしたかったんでしょうか? そんなばかな! 確かに音程のくずれにくい手の形はあるかもしれませんが、音程は耳で取るもんでしょ!耳で!
「じゃあ、スケールは何のために練習するの?」という質問が聞えてきそうですが、私の考えでは「ポジション位置の習得」「ポジション移動パターンの習得」のためだと思います。
要するに、音程を良くするためには、ピアノのような常に正確な音程の音を出す楽器または装置を使って、その音を繰り返し聴いて記憶すればいいと思います。もしも、あなたがピアノをお持ちでしたら、スケールを練習する前にそのスケールをピアノで何回も弾いて、音を覚えましょう。あるいは、チューナーを使って1音づつチェックするのもいいでしょう(ただし、市販のチューナーは高い音になると反応が鈍くなるようですが)。理想的なのは、誰かにピアノかヴァイオリンで音を出してもらってガイドしてもらうことですが、これはなかなかできないかもしれませんね。
さて、ここまでお話ししてもまだ、「スケールを練習することが音程を良くする近道だ!」と信じ込んでいる方もいらっしゃると思います。仕方ない。それでは、より効果的なスケールの練習方法を以下に示しましょう。
- なるべく楽譜は見ない
- 昇りは長調、降りは短調、あるいはその逆
- 分散和音は重音で弾いてチェック
- どうせ練習するなら、12長調、12短調全てを一気に弾く
- 全部やるなら次の順番で練習してみては、
長調は、G→As→A→B→H→C→Des→D→Es→E→F→Ges
短調も同様。要するに半音ずつズレていくだけのことです。
もしもこれでも、音程がよくならない(といっても自分では音程が良くなったかどうか判断できないかもしれませんが、)方は、やっぱりピアノを弾きましょう。それが1番の近道だと思います。ちなみに2番目の近道はバロックをたくさん弾くことでしょう。それから重音を積極的に弾くとか。。。。。と、ここまで偉そうなことを言っている私も、実は音程にはまだまだ問題があるのです。
(15)3拍の中に2拍入れる。(6 Feb 98)
たまに、3拍の中に2拍入れるとか、4拍の中に3拍入れるとか、ややこしいリズムの曲がありますよね。こういうのはどうやって取ればいいのかといいますと、細かく拍を割って数えればいいんですね。例えば、3拍に2拍入れるのは、
1ト 2ト 3ト (あるいは、 タン タン タン どちらでもお好きな方で!)
数字は3拍の方を表わし、青の太字は2拍の方を表わしています。声に出すときは太字の方にアクセントを付けましょう。また、数字の方を右手で叩き、左手で青の太字の方を叩いても取れるでしょう。どうです、簡単でしょ。曲を弾くときにこのパターンを思い出せば、簡単にリズムを取ることができます。
同様に4拍の中に3拍入れるのは、
1トト 2トト 3トト 4トト (あるいは、 タンン タンン タンン タンン)
ですね。
ちなみに、これを発展させると、例えば、1stポジションで、A線上でシドシドシドと6連音符を弾きながらD線上でソラソラと4連音符を弾く、なんていう変態的な技もできるようになります。まあ、これができたからといって別段どうということもないのですが、コンチェルトのカデンツアなんかでよく重音の上の音だけとか下の音だけ動く、なんていうときには多少役に立つトレーニングになるかもしれませんね。興味を持たれた方は試して見てください。案外簡単にできますよ。
(14)3指のトレーニング。(7 Dec 97)
3指は自分の思う通りになかなか動いてくれない、そうは思いませんか。例えばトリルについて言えば、1指はまずトリルすることはないだろうし、あってもそこそこ動くでしょう。2指だったらある程度トリルのトレーニングをすれば、問題なく動くようになるでしょう。ところが、3指はトリルのトレーニングをしただけではそれほど効果が上がらない。以前、このコーナーの(8)で「トリルの高速化」についてお話ししましたが、トリルの練習には何か常動曲も併せてやると効果的だと思います。でも3指に関してはもっと効果的な練習方法があるんですね、これが!!(と、思っているのは、ぼくだけかもしれない。)
3指が思い通りに動かないのは、筋肉の量、質の他に、4指と神経がある程度つながっているのが原因だと思うんですよ(といっても、医学的に本当につながっているかどうか、ぼくは知りませんが!)。3指のトリルをすると4指もつられて動いてしまいますよね。そこで、こんな練習をしてみてはいかがでしょうか?
3指のトリル練習(スピードはゆっくりでもOK。)を行うのですが、その時他の1、2、4指は全て弦を押さえるようにします。押さえる位置、弦はなんでも構いません。とにかく3指以外は常に弦を押さえている状態にしてください。弓で音を出す必要もありません。意外とこれがつらい、思う様に動かないものです。この練習はあまりやりすぎると手が痛くなりますので、ほどほどに。ちなみに、あるビデオでハイフェッツもこのような練習をしていました。
(13)小節線を越える瞬間にドラマがある。(19 Nov 97)
音楽は基本的に、川の流れのようなものだと思うんですよ。川の流れだから、所により急流になったり濁流や滝もあるでしょう。それから、穏やかに流れたり、よどんでいてほとんど流れていないように見えるところもあるでしょう。川面に笹船を浮かべると、その動きで水の流れる速度がところどころ変化しているのが分かりますね。でもどんなに動きが遅くなっても決して速度がゼロになったり、デジタル的に速度が変化したりすることはないですね。
音楽も同じだと思います。さっきまで混沌としていたのが、急にスムーズ流れ出したり、また、その逆にさっきまで弾むようなテンポだったのが急に重苦しい雰囲気に変わったりしますね。こういった変化する部分に、特に何か心揺さぶられるものがあります(そう感じませんか?)。そしてこのようなテンポや表情が変化するのは、多くの場合小節線を越える瞬間だと思います。この小節線を越える瞬間の音楽を途切れることなく滑らかに、かつテンポを速くしたり遅くしたりすると、音楽が生き生きしてくるし、深みというか、味というか、色気というか、が出てくると思います。例えば、ブラームスのソナタなどは、小節線を越える瞬間のドラマが多数用意されていると思います。(例えばG-durの1楽章の10-11、28-29、60-61、70-71、81-82、98-99、117-118、155-156、164-165、173-174、207-208、234-235小節間など)特に、ブラームスの場合はテンポを上げるにも下げるにも、それなりに時間をかけた方がブラームスらしくなると思います(やり過ぎるとどんくさくなりますが)。ブラームスはきっとキビキビとした素早い動きは苦手な人だったんだと思います。曲からはそんなイメージが伝わってきます。逆にモーツァルトやメンデルスゾーンはすばやく変化させるとそれらしく聞こえると思います。
小節線を越える瞬間に何かを感じるようになったら、あなたの演奏はもっと艶が出てくるでしょう。でも、こういうことって、普通のヴァイオリンの先生はなかなか教えてくれないんだよね。普通は無意識にやっていることのようだから。
(12)私の楽器を紹介します。(22 Oct 97)
Carlo Ferdinando Landolfi, Milano 1758 、、、と言いたいところですが、実はレプリカです。本物でしたら4000万ぐらいするでしょう。アメリカのあるメーカーに知り合いを通じて作ってもらいました。1993年製です。普通の人ではまず見極めは無理だと思います。世の中にはこんな精巧なレプリカを作る人がいるのですから、鑑定家も大変ですね。
楽器を選ぶポイントはいろいろあると思うのですが、楽器に致命的なキズなどがない、板の厚み、ニス、作りにも問題ないとして、音で選ぶのでしたら、雑音が少なく高音がどれだけ出るかという点で選んではいかがでしょうか。音質については調整によりかなり変えることが出来ます。音量も調整で若干は出るようになりますが、明らかに限界がありますね。上の楽器はとにかく高い音ほど良く出る、ギャンギャン鳴るという感じです。(ちょっと自慢!)
(11)歌うように呼吸しよう。(6 Oct 97)
みなさんは、ヴァイオリンとかピアノなどの演奏を聴いていて、ときどき息苦しく感じた経験はありませんか?ガチガチに緊張している人は(ぼくもよくそうなるんだけど)、浅い呼吸しかできなくなってしまうんですよね。そういう人の演奏を聴いていると、聴いている方もだんだん緊張してきて、呼吸困難になっちゃう。どうしてなんでしょう????
どうも、音楽を聴いているとき、人は無意識のうちに、その音楽に呼吸を合わせているようです。いや、呼吸だけでなく、体の動きも、気がついたら音楽に合っている、なんてことがよくありますよね。例えば、ウオークマンを聴きながら歩いていると、いつの間にか音楽とステップ(足の動き)が合ってたり、信号待ちのときも手や足、頭など、どこか動かしていないと気がすまない。最近のパチンコ屋さんはだいぶおしゃれになったけど、10年位前だと、よく「軍艦マーチ」がBGMでかかっていて、そういうパチンコ屋さんの前を通る人は、みんなステップが合ってしまう。音楽に合わせて呼吸したり、体を動かしたりするのは、本質的に人にとって楽しい、心地良いことのようですね。
だから、逆に呼吸をする間のない演奏を聴いていると、しだいに呼吸困難になってきて、なんだか聴いているのが苦痛になってしまう。
およそ大家と呼ばれる人達、例えばルビンシュタイン、シェリング、マ、の演奏は、聴いている人にちゃんと息をさせてくれるし、ときにわざと、聴いている人に呼吸をさせないでおいて、多少酸欠状態というか不安な状態を作っておいて、その後、大きく深呼吸させるようにたっぷりと間を取って、「やれやれ、リラックスできた、よかったよかった。」と、感じるように(?)、なんてこともしているようです。。。じゃあどうすれば、そういった演奏ができるのでしょうか。
つまり、演奏しているとき、音楽に合わせて自分も呼吸をすればいいのです。ただそれだけのことなのですが、これがなかなかできないようです。もうすこし具体的に言うと、
@音を出す直前に息を吸う。音を出しているときは基本的に息を吐き続ける。
Aアーフタクトで息を吸って、1フレーズ間は息を吐き続ける。
Bメロディを声を出して歌ってみれば、ブレスすべき位置がわかります。
Cブレスの位置では少し間を取る(無意識にそうなるでしょう)。
D逆にブレスしない位置で間を取ると音楽の流れがなくなってしまう。
要するに、声を出して歌うのと同じように呼吸すればいいのです。簡単ですね。これで、あなたも大家の仲間入り!
余談ですが、この呼吸音を使って合図を出す指揮者、コンマスもいます。いや、むしろほとんどといっていいでしょう。しかし、あまりに大きすぎる呼吸音は、ちょっと、ん〜、プロレスじゃないんだから、少なくとも観客には聞こえない方がいいんじゃないかなって、ぼくは思います。まっ、それも演奏家の一つの個性と言えなくもありませんが。
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