鐔 銘 貞香弘光 花押

 最初の1枚

貞香弘光 鐔

 この鐔に出会ったのが、平成の初め頃だったと思います。生まれて初めてこういう物にお金を出しました。
 私、利用できない美術品、工芸品の価値を認めていませんでした。食器だったら使えます。百歩譲って、絵画でも部屋に架けて楽しむことがきます。でも、これは‥‥。いまさら刀を差して町を歩くわけにもいきません。
 しかし、この鐔の美しさ。どうしても自分のものにしたいと云う物欲に負けました。いや、こういう物は、私の心や、感性を豊かにしてくれるはずです。きっとそうだと思います。物理的に利用価値がなくても、精神的に役に立っているはずです。そう思いたいのです。
 そして、この鐔が私にとって記念すべき収集第1号です。そして、苦難の道の第1歩になりました。
 表(左図)は、松の木の下の疎家で、雀が巣造りをしてる図。裏(右図)は、田圃に雀の図。サイズは約、縦65×横56×厚み4mm。四分一地金、表面は梨子地仕上げ。作者は、打越弘寿の門人、貞香弘光。常陸の国水戸、江戸住。江戸時代後期。作者の詳しい事は分からず、銘鑑にもあまり出ていません。
 中形の鐔で、高彫りのされた四分一の老松の下、藁葺(茅葺)の疎家の屋根から素銅の雀が顔を覗かせ、巣を作ろうとして藁を待っています。そこへ別の雀が藁を運んでくる。裏は、片切り彫りされた田植え前の田圃と、赤銅の杭に、鳴子の下がった銀の綱が張られ、鳴子に驚く雀の姿が見えます。金、銀、赤銅が所々に使われ、細部にわたり細かい仕上げが施されています。雀の顔など、ルーペでしか確認できない細工は、これを所持する私の気持ちを妙に喜ばせます。まだまだ青いと言われようとも、平気で聞き流せます。水戸金工は細かい細工に優れた物が多く、この金工達が、江戸で活躍し、明治金工の、技術の基盤を作ったのでしょう。
 偶然にも何年か後、この金工師の帯留めを見つけました。左から「弘光」と銘を切ってあったので、右読みで「光弘」と思いましたが、銘は弘光に間違い有りません。サイズは約、縦18×巾32×厚み7mm。四分一地金で白毛部分は銀で出来ています。最初っから帯留めとして作られています。年輩の未亡人が翁の帯留をしてるって何となく美しくじゃあないですか。これは現在、私の義母が所有し、使ってくれています。

帯留め


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